なんだか発音がしにくいし、食べ物を上手に噛み切れない。見た目以上に気になるのが、歯並びが体に与える影響です。今回はオープンバイトと呼ばれる歯並び「開咬(かいこう)」の原因やその弊害、矯正方法について解説します。
開咬ってどんな歯並び?原因は?
百人百様の歯並びを個性と捉える方も多いと思いますが、歯並びの悪さ、つまり「不正咬合(ふせいこうごう)」は、私たちの健康を脅かす引き金にもなりえます。今回ご紹介する開咬という不正咬合は、乱ぐい歯(歯並びの列が乱れている状態)に比べて症例数は少ないものの、大きな健康被害をもたらすことがあるので、早めの矯正が必要です。
開咬とは?
開咬とは不正咬合のひとつで、上下の前歯の間にすき間があり、噛もうとしても前歯では噛めない状態をさします。奥歯はキチンと噛み合うのに、前歯は噛み合わないため、食べ物を適切に噛み切ることができない歯並びのことです。
開咬になる原因
開咬は、先天的に生まれ持った骨格が原因といわれることもありますが、他にも幼少時代の指吸いや舌を出す癖などの悪習癖が原因になったり、鼻が詰まっていて口呼吸をしていたなど呼吸器関連の問題が原因となることもあります。
先天的な原因のひとつとして、「アゴの発達」があります。成長期にアゴが下に長く成長した場合、開咬になってしまう可能性が高くなります。また後天的な原因としてはやはり悪習癖が関連が高いです。特に「指しゃぶり」「舌を前歯で噛む」「頬杖を常習的につく」などのクセが挙げられます。また、自分の注意で改善できるものの他に無意識に行ってしまう悪習癖も開咬の原因になります。例えば、口呼吸であったり、無意識に舌を前に出してしまう癖がある場合には、舌が前歯の間に入り込んでしまい、開咬の原因になってしまいます。このように開咬の原因は遺伝的要素を除き、生活習慣が大きく関連しています。
開咬の矯正方法とその特徴
開咬は不正咬合のなかでも、治療が困難な歯科矯正だといわれています。開咬は受け口や乱ぐい歯を併発することも少なくありませんが、口腔内の状態をみて、適切な治療を受けることで改善可能です。ここでは開咬の矯正方法と、それぞれが持つ特徴について紹介していきたいと思います。
ワイヤーを使う従来型の矯正
開咬治療の第一選択となるのは、マルチブラケット装置です。いわゆる一般的な矯正器具として知られている歯の表面に装着するワイヤーです。
マルチブラケット装置は完成度が高く細密な歯の動きを可能とするため、難しい開咬の治療も比較的容易に治療可能です。矯正治療のスタンダード手法であるため、高額な治療費を抑えることも可能です。
デメリットとしては、ブラケット部に金属を使うため審美性が劣る点や、口腔内を衛生的に保つのが難しい点が挙げられます。
気になる費用に関しては70~120万円程度です。
見えない裏側矯正
前述した従来通りのマルチブラケット装置は、目立ちやすいのが大きなデメリット。しかし、ブラケット部分を歯の裏側に装着することで、矯正装置を目立たなくすることが可能です。
ただし、裏側矯正は開咬治療の選択範囲は従来のマルチブラケット装置よりは狭く、場合によっては利用できない場合もありますので担当医によく相談してみましょう。
また、裏側だと滑舌が悪くなったり、舌が切れたりと口腔トラブルも多く、ブラッシングがしにくい点は表側よりも難点です。
値段に関しては表側のワイヤー矯正よりも高額で、100~170万程度を見積りましょう。
マウスピース型の矯正
マウスピース型(歯に沿った形の透明型の装置)の矯正方法は歯にブラケットやワイヤーを装着する必要がなく、取り外しができる利便性から、世代を問わず人気のある矯正方法といえます。中でも開咬治療を得意としているのがインビザラインと呼ばれるマウスピース矯正装置です。
魅力的なマウスピースによる矯正ですが、重度が高い開咬の場合、マウスピース治療は適応できないこともあります。詳しくは担当医に相談してみるようにしましょう。気になる費用に関しては、インビザラインは70~120万円程度です。ちなみに、同様のマウスピース型の矯正器具ではアソアライナー、クリアアライナーが有名ですが、こちらは奥歯を動かすことはできませんので開咬の治療には使用できません。
タングクリブ・タングガード、外科治療による矯正
タングクリブまたはタングガードと呼ばれる装置も開咬矯正で使われます。舌が上下の歯から出ること、または指しゃぶりを防ぐための柵状の矯正装置で、特に幼児の開咬矯正に使用されます。これらの装置自体に歯を動かす作用はありませんが、開咬の原因となる悪癖を防止する目的で多く利用されています。
また、開咬でも骨に原因がある場合は外科的手術が施される場合も少なくありません。開咬治療の口腔外科手術は保険適応内です。
開咬を放置すると、体にどんな悪影響を及ぼすのか?
噛み合わせが悪いと、日常生活のなかでも多くの不便を感じるものです。ここでは開咬が招く健康リスクについて考えてみたいと思います。
- 食事が上手にできない。
開咬だと食べ物を綺麗に噛み切ることができません。例えば、サンドイッチを食べるとき、パンの部分は厚いので咬み切れますが、中のレタスなどは咬み切れずズルズルと出てきてしまいます。開咬の場合はこのように上品に食事をとることがむつかしくなります。
また、開咬の方は、前歯で咬み切れないため奥歯だけで食事することが多く、食事に疲れやすく丸飲みしてしまうことも少なくありません。食べ物を適切に咀嚼していないため、腸内で消化する際に大きな負担をかけます。栄養摂取の観点からも好ましくありません。
2.口内環境の悪化
開咬の患者様はうまく口を閉じられない場合が多く、唾液の分泌が少なくなります。その結果唾液による自浄作用が低下し、口臭の原因になったり、歯周病を引き起こしたりする場合も少なくありません。
また奥歯ばかりで食べ物を噛むことで、奥歯に負担が大きくなるため若いときは虫歯になりやすく、大人になってからは歯周病のリスクが増大します。虫歯の治療をした時にも同じ場所にまた負担が大きくなるため、せっかくいれたかぶせ物が壊れやすくなります。
3.発音がしにくくなる
前歯が噛み合っていない状態なので、発音がしにくい場合があります。例えば英語のTHの発音は、上下の前歯で舌を軽く挟んで発音するため、開咬の方にとっては難易度の高い発音といえるでしょう。
また滑舌が悪い方は、その原因として開咬を疑うべきかもしれません。
4.顎関節症(がくかんせつしょう)の原因になる
前歯で食べ物を噛めないため、日常的に奥歯でしか食べ物を噛み切らないことになります。そのため、奥歯の負担が増え、アゴを不安定にさせて、顎関節症(※)の原因をつくります。
※アゴの関節やその周囲に現れる病気で、「アゴがカクカクする」「口が開けにくい」などが主な症状。
5.前歯が脱落しやすくなる
使わない器官は「廃用性萎縮(はいようせいいしゅく)」と呼ばれる現象によって萎縮していきます。例えば寝たきり老人になってしまうと、足を使わないため廃用性萎縮により大変足の骨が細くなってしまいます。同様に、開咬が原因で前歯が使われる機会が減ると骨が痩せてしまい、その結果、健康的な前歯を維持することが困難になってきます。
開咬の改善に向けて適切な治療を
歯列矯正に臨む患者様はその多くが、審美的側面を追求しがちです。しかし前歯がうまく噛み合わず、奥歯ばかりに負担がかかる開咬は、不正咬合のなかでも多くの問題を誘発することを忘れてはなりません。まずは歯科医の診断と適切な治療を受けて、歯の健康維持に努めましょう。
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